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【連載第2回 Aレベルとは?】Aレベルで必要な日本語スキルとは?

磯崎みどりです。前回、Aレベルとはどんなカリキュラムなのか、そして、シンガポールのインター校で唯一AレベルとIBDPの両方が提示され、どちらかを選択するTanglin Trust SchoolのAレベルについてもそのカリキュラムをお知らせしました。今回はAレベルの日本語について書いていきたいと思います。

Aレベル日本語の前に(GCSE)

Aレベルとは、いわゆる高校生最後の2年にあたるSix Formers(Y12, Y13)の教育プログラムですが、そのAレベルの前にはGCSE(General Certificate Secondary Education)と呼ばれるプログラムがあります。今回、Aレベルの日本語について説明をしていきますが、Aレベルとはその前のGCSEから始まるカリキュラムであるため、GCSEの日本語から説明します。

現在、日本語のテストが実施されているのは外国語としての日本語で、GCSE1年目に平仮名学習から始めるカリキュラムとなっています。ただ、その習得すべき内容には驚かされるものがあります。Pearsonという、世界70カ国で事業展開する世界有数の教育サービス企業からのGCSE2年、Aレベル2年の合計4年間の最終テストでは、『窓際のトットちゃん』に始まり、芥川龍之介『羅生門』に至るまでの幅広い文学作品を読みこなし、日本語で時事問題にも答えられる語彙力を身につけることが求められます。つまり、このAレベル日本語の最終テストは、外国語としての日本語の位置づけでありながらも、最高点のA*(90%以上)を取るには、決して侮れない内容なのです。

母語としての日本語(First Language Japanese)のテストは、Cambridge IGCSE(Inter-national General Certificate of Secondary Education)の母語日本語のテスト(Japanese as First Language)として実施されていましたが、内容が難しすぎたり採点基準が厳しすぎたりということが重なったのか、受験者が激減し、2018年を最後にすでに廃止されています。ちなみに、Cambridge IGCSEでは、外国語としての日本語(Japanese as Foreign Language)も2021年を最後にテストが廃止されています。

このような状況下にあって、PearsonのGCSE日本語も消滅の危機にありましたが、なんとか署名運動によって存続されることになり(私も署名活動をしました。)、現在もEdexcel GCSE Japaneseだけは残っている状態です。

Aレベルの日本語課題

上記のような事態を乗り越えて存続しているEdexcel GCSE Japaneseの最終テストであるAレベル日本語テストは、大変面白いカリキュラムです。先述のように作品を読むのに加え、時事問題に関する知識も必要で、テストでは自由研究で学んだことを書く問いも含まれています。具体的には以下の通りです。

図書課題
・『どんどん読めるいろいろな話』秋元 美晴・糸川 優 編著、1991 (short-story collection)
・『キッチン』吉本ばなな、1998 (novel)
・『窓際のトットちゃん』黒柳徹子、1991 (autobiography)
映画課題
・千と千尋の神隠し、宮崎駿監督 (2001)
・ディア・ドクター、 西川美和監督 (2009)
・誰も知らない、是枝裕和監督 (2004)
時事問題テーマ>
「テーマ1: 変わっていく若者の生活」
• 教育 教育制度やその改革(ゆとり教育以降):試験や塾:文部科学省によるカリキュラム管理
• 若者の健康(身体面と心理面) 、若者にかかるプレッシャー:それが健康や食生活に与える影響:いじめ

「自由研究の課題」
• 家族関係や人間関係 伝統的な家族構成:核家族:家庭内の人間関係
<時事問題テーマ
「テーマ2:変わっていく文化」
• 変わるポピュラー・カルチャー アニメや漫画:音楽:武道・武術
• テクノロジーの影響 テクノロジーの進歩:ロボット:オートメーション

「自由研究の課題」
• 変わっていく行事 伝統的な祭りや現代的なイベント:イベントや祭りと観光業の影響:西洋行事の流入
時事問題テーマ
「テーマ3:変わっていく人生観」
• 変化する労働 終身雇用制度の崩壊:仕事に対する意識の変化:仕事のための移住
• 長引く不景気 日常生活への影響:政府の対応:経済の国際化:移住外国人労働者の受け入れ

「自由研究の課題」
• 高齢化社会 高齢者の孤立:家族からのサポート:社会的支援
<時事問題テーマ
テーマ4:東日本大震災後の日本
• 3月11日とその直後 地震と津波の被害:避難生活:救出と援助:海外の反応
• 復興への政策 被災地の立て直し:ボランティアや国民の団結:困難を乗り切る力:心のケア

「自由研究の課題」
• 福島原発事故後の省エネ生活 日常生活の中の省エネ:エネルギー供給をめぐる議論:省エネに関する昔の知恵

まとめ

上記でAレベル日本語の詳細についてお知らせしました。次回はTanglin Trustでの取り組みについて書きたいと思います。

磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校のご紹介

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

日本語文化継承学校の日本語教師募集

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご連絡ください。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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