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【〜連載〜帰国前にできること】第三回どのようなバイリンガルを目指す?後編:大学進学を考える高校受験生世代に向けて

こんにちは、磯崎みどりです。連載も三回目となりましたが、今回、第二回目から少し時間が空いてしまいました。実は、一人娘の結婚式をNY、そしてシンガポールと二回開催したことで、手伝いや移動を繰り返していたことが遅れた原因でした。この第三回では、その娘もシンガポールで経験した、高校から大学への進学について、再び「バイリンガル」をキーワードに経験を混ぜながら、書いてみたいと思います。

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①どの程度のバイリンガルを目指すべきか

まず最初に、インター校に通う日本語が第一言語(最も強い言語)である生徒について考えてみましょう。インター校によっては、ESL(English as Second Language)と呼ばれる英語力を補習するクラスがあり、日本から来たばかりであったり、英語力が十分でないと学校側が判断すれば、そのESLでまずは英語を学ぶことがありますが、そのクラスを卒業し、いわゆる「メインストリーム」と呼ばれるクラスに入りさえすれば、バイリンガルなのでしょうか。一つの指標となる数値を挙げておきましょう。それは、帰国受験をする生徒が英語力を示すためのテストであるTOEFLの点数です。TOEFL iBTは満点が120点で、合格のために取っておくべき点数は以下の通りです。

105点以上東京大学・京都大学・一橋大学など
100点以上早稲田大学・慶應大学など
90点以上上智大学・ICUなど
75点以上青山学院・明治・法政・同志社・立命館大学など
65点以上立教・中央・日本大学など

このTOEFLの点数は、例えばアメリカの大学を受験する際には非英語圏の出身の生徒は必ず提出を求められるため、希望する大学が示すTOEFLの点数を知っておくことは必要ですが、競争の激しい大学ほど、指示される点数は最低点だと考え、その点数よりできるだけ高い点数が取れるような英語力を身につける必要があるでしょう。アメリカの大学で知名度の高い大学受験を考えるのであれば、最低でも80~100点は必要で、アイビーリーグなどは105点以上、満点に近い点数が当たり前であることを知っておくことも大切だと思います。

英語のテストで必要とされる点数が明確になったところで、すでに英語が第一言語になっている生徒の場合、バイリンガルと呼ぶには、日本語はどのレベルが必要かということになります。もし、高校生の皆さんがIBDP(インターナショナル バカロレア ディプロマ)取得を目指そうと考えているのであれば、自分のアイデンティティーを見直すところから始めてください。

IBDPはアイデンティティーの重視と多言語を謳うプログラムですから、自分の「日本」を見つめなおして、日本語でのバイリンガルを証明したいということであれば、IBDPにはBilingual Diplomaというもう一つのディプロマ取得を考えるといいのではないでしょうか。

IBDPで日本語を選択する方法は、通学するインター校で日本語指導が行われていればそこでの選択が可能ですが、なければ選択できないと考える方もいらっしゃるのですが、そうではありません。インター校の学費に上乗せしての支払いが必要なことがありますが、SSST(School Supported Self Taught)というシステムがあり、学校側が指定する教師、もしくは個人で選択した教師によって指導を受けられるようになっています。

シンガポールのインター校の多くで、高得点が取得できないようであれば、言語選択を考え直させる学校が多くありますが、継承語の研究をしていた立場にあり、均衡バイリンガルの娘を育てた母の立場から、声を大にして、言語選択は単に大学入試のために行うものではない、アイデンティティーと強く結びつくものであることを伝えたいと思います。

このIBDPのBilingual Diplomaの詳細はまた機会を改めて書きたいと思いますが、大学入学に当たって目指すバイリンガルがどの程度であるべきかは、生徒個人の希望や目指すところの違いによって違ってきます。ですから、まずは生徒自身が自分で何を目指すのかについてよく考えてみることから始めてほしいと思います。

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②どのようにしてバイリンガルになればよいのか

①で、どの程度のバイリンガルを目指すのかがうっすらと分かったところで、こんな声が聞こえてきそうです。「日本語は第一言語だが、英語の点数を上げるのが難しい。」これは、英語が第一言語ではない生徒の話です。もとより、英語が第一言語となっていれば、インター校ではメインストリームにいるため悩むことはないと思いますが、実際に今まで私が指導してきた生徒の中で、英語の点数(基本的には、上記TOEFLの点数)をのばすことに苦労をしている生徒がいました。

私は現在日本語、日本文学を指導していますが、英語教師でもあったため、そういった生徒にどのように指導すればよいかを確認する意味もあり、自分がTOEFLのテストを受験しに行きました。実は自分の学びなおしのためにその前からTOEFLを受験して、自分の英語レベルを確認しておこうと思っていたのですが、TOEFL受験会場で指導する生徒と出会い、私自身がアドバイスとして生徒に受験をした経験を話せたのでよかったと思いました。

私がアドバイスとして伝えたことは次の三つです。

①英語の文章を繰り返し音読すること
②なんとなく意味が分かるというのではなく、こまめに辞書を引いて語彙の意味を調べて覚えること
③辞書で意味を調べる際に、同時に意味や使用法がわからなかった語彙の同義語を必ず調べることと、
その同義語の使用法も確認し、違いを例文で確認することです。

これらは当たり前のことばかりですが、高校生になるとなかなかやらなくなっていたことのようでした。

③どの時点でバイリンガルになればよいのか

この問いはおそらく生徒の皆さんが知りたいだろうと思い設定したものの、私もはっきりと、「この時」と言える答えを持ち合わせていません。しかしながら、日本語が第一言語の生徒は、できるだけ早い時点で、できれば高校の最終学年になる前に英語力の強化に努めるのがよいのではないかと思います。

逆に英語で授業を受けているインター校の生徒で英語が第一言語になっている生徒で、IBDPで日本語のJapanese A(母語レベル)を選択したいと思うなら、小学6年生レベルまでの日本語学習を終了していれば、理解という面では可能だと考えます。

もちろんさらなる文章理解への努力は必要な上に、Japanese Aは文学分析やさまざまな日本語を使用したメディア(新聞、SNS、絵画に書かれた文字、映画やドラマなど)の理解が必要なため、文学的センスや勘の良さなども分析する上で必要となりますが、よく聞く話である「IBDPの日本語って難しいらしいから、選択しないほうがいいよ」という噂に流されて、日本語選択をやめておこう、というのはもったいない話だと思います。

英語での教育のみを受け続けてきた娘の場合は、IBDPで日本語を母語レベルで選択することについては、私がその意義を彼女が小学生のころから伝え続け、本人が高校卒業までの目標として日本語学習の動機を持ち続けました。IBDPで満点である45点を取得したのみならず、日本語と英語の両言語ともに満点の7でBilingual Diplomaも取得するという、二つのディプロマ(履修証明書)を得たことで、英語と日本語の両方が同レベル、つまり前出の均衡バイリンガルであることを証明できたことは 、本人にとって大きな自信となったことは間違いありません。

④言語面だけではない大切なこととは

「バイリンガルになるには」をキーワードとしての連載である中、大学受験を目前とした高校生の場合「なるには」というより、「どこまでを目指すべきか」という話に終始しているようですが、目前に迫る受験に言語面ではどう対応するかということを理解しておくのと同時に、日本の大学を受験するにあたっては帰国受験生もしくはIB受験生に求められているのが、「どのように海外で過ごしてきたのか」「海外の学校で学ぶ中で何を得てきたのか」ということを語れるようにすること、そして、「自分が学びたいと考える専門と今までの自分がどのように結びついているのかについて、自分の言葉で語れること」が最重要であることを知っておくことは大切だと思います。

自分の言葉で何を学びたいのかをしっかりと語ることができなければ、たとえさまざまなテストで高得点を取っていても、「海外で過ごした生徒」として、大学側にとっては、合格させたい生徒ではないのです。日本以外の大学の場合も、競争が激しい大学ほど高得点を取って当たり前の生徒ばかりが、しのぎを削ります。

バイリンガルとなり、英語を含めたさまざまなテストで高得点を取ることだけを目標とするのではなく、自分の強みはどこにあるのか、何を強みとしてアピールできるのかということを常に考えながら、高校生の皆さんがその中の一つとして強くアイデンティティーと結びつく言語の習得を誇れるような学生生活を送れることを願っています。

磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校のご紹介

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。

様々な環境の子供たちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校は様々なコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

日本語文化継承学校の日本語教師募集

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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