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【〜連載〜海外生とIBプログラム】第3回 IBDPと学校選択 ~IBDPを選んだ親の一人として~ 

こんにちは。磯崎みどりです。4月は日本の教育システムでは入学時期であり、指導する日本語文化継承学校では入学シーズンに合わせて忙しくしていました。併せて、2023年度のIBDP本番は5月1日から始まりましたが、私も最後の追い込みをかける生徒の指導にIBDP Japanese A Literatureの教師として忙しく、しばらくこの連載を書く時間が取れませんでした。本番が始まってしまったので、やっとまた落ち着いて連載記事を書いていきたいと思います。

さあ、そんな少し休憩を入れたことで、これまでの連載内容とは大きく内容を変え、私の私的な見解、一人の親としてのIB校選択について書いてみたいと思います。私はどのようにして自分の一人娘にシンガポールで学校選択をし、娘がIB校で学生生活を送ったかについて、書いていきたいと思います。

【連載】
【〜連載〜海外生とIBプログラム】 第1回IBプログラムとは?IBDPで大切な2つのスキル
【〜連載〜海外生とIBプログラム】第2回IBDPと海外大学受験~IBDPでの科目選びやIBDPの強み~ 

IB校を選択したのか?

我が家がシンガポールに移住を決めたのは、2000年でした。その時滞在していた米国からシンガポールに移住を決めたのは夫の仕事のためで、この連載を読んでくださっている多くの皆様と同じでした。

国を越えて移動する際、特に帯同する子どもの年齢が上がるにつれ、引っ越しの課題と言えば学校選びが中心となるでしょう。我が家の場合、大きく二つの選択肢を考えていました。一つは、できるだけ今までと同じアメリカのシステムを引き継ぐこと。つまり、シンガポールではアメリカンスクールを選択するというのが選択肢の第一として考えられることでした。

実際、先にシンガポールに到着していた夫は、アメリカンスクールの見学に行っていました。アメリカンスクールは、第一にアメリカ国籍を持つ生徒を優先して入学させ、その次に優先順位が高いのがアメリカに居住していた非アメリカ人の子どもたちでした。ですから、我が家にとって選択肢として第一に挙げてもよい学校でした。

もう一方の選択肢は、UWCSEA(United World College South East Asia)でした。当時、今のようにDover校とEast校と分かれていたわけではない上、以前から寮が整っていたため、アジア中から教育先として注目されていた学校で、さらに、娘の学年が初めてK1からG12まで繋がる教育制度が整ったところでした。

両方の学校を見学した上で、夫がUWCSEAを選択しました。最も気に入って選択した点は、生徒の多様性だったと言います。世界中からいろんな生徒が集まってくる学校であり、シンガポールだけでなく、アジア中から生徒が集まるということが、きっと我が子に良い影響を与えることになるだろうと考えた選択でした。

つまり、最初から、IBカリキュラムだからということが学校の選択肢ではありませんでした。それは、私たちの移住の際の娘の年齢が8歳で、大学受験の際のカリキュラムを重視して考えなかったというのが正直なところです。

かつては小学校高学年以上のカリキュラムしかなかったUWCSEAでしたから、知り合いの卒業生も高校を卒業したという人ばかりでしたが、間違いなく上級学年はいい学校なのだろうと思って選択した、という単純な考えでした。したがって、実は最初、がっかりする点もありました。それは、教育内容と授業料の高さが合わないと感じたことです。

アメリカでは公立校に通学していた娘は、もちろん無償で教育を受けていました。無償でありながらも、教育熱心だったVirginia州のFairfax Countyという地域では、小学1年生になると理解力確認のテストがあり、それにしたがって、読解能力の高い児童、数字理解能力の高い児童には特別なカリキュラムが準備されていて、3年生からはGifted Talented Studentsのための学校があり、娘はそこに行くことが決まっていた中でのシンガポールへの引越しでした。

無償で手厚い教育を受けられることが決まっていたのに、シンガポールでは大変高額な費用を払ってインター校を選択したのは、実はローカル校を選択したくなかったからです。それは、英語が第一言語ではない娘に、中国語を必須科目として学ばせることに躊躇があったことが理由ですが、ただ、それもUWCSEAでも中国語を必修科目として学ぶことになり、これだったら、ローカル校を選択しても一緒だったかも、と費用面で少しがっかりするのですが、後からだんだんとIB校であるよさが分かってくることになります。

でも、そのよさが分かるまでには少し時間がかかることになります。1章のタイトルの意味は、そういう意味なのです。

IBシステムを理解して

1章に書いたように、UWCSEAを選択した最初はコスパの面で満足ではなかったUWCSEAですが、一方で学歴主義の強いローカル校ではなく、幼い時には毎日友だちと遊ぶ時間を作りたいという思いでUWCSEAを選択したのは、のんびりしたアメリカの公立校で学んでいた娘には大正解だと思いました。

宿題は一時間以内に終わらせる内容よりも多く出されるとPAで保護者が先生に文句を言うような状況にはさすがに驚きましたが、UWCSEAは小学生から課外活動が充実していて、習い事は運動、音楽のすべてに至るまで、すべて学校内で事足りるだけでなく、その指導者、コーチは超一流で、娘は毎日毎日、学校での習い事と遊びの時間を取り、宿題を済ませても、毎日しっかりと友だちとの遊びの時間と読書の時間をとる余裕がある生活ができました。

そんな生活をしたのは最初の3年ほどで、その間にもレベル別に分かれた算数クラスでは、アメリカの公立校よりはずっとレベルの高い内容を学んでくることで、その頃にはコスパの悪さはあまり気にならなくなっていました。でも、納得してUWCSEAを卒業させようと考えたのは、G8から高校生としてさらに課外活動が充実し、学習内容が充実してきたことが理由でした。

つまり、IB校であるUWCSEAにおいては、全人格の成長を重視するIBの精神は小学生に始まり、高校生になるまで浸透していることを感じることができたからです。生徒の多様性に目を付け、そこから学ぶことがあるはずだと考えた夫の考え方も正しく、その多様性はまさにIBカリキュラムが目指すところを伝えることになり、生徒に多様性があるからこそ、自分のアイデンティティーを見つめることにもなりました。

IBカリキュラムのシステムは、少しわかりにくいところがあったため、私は積極的に学校側が主催する保護者のための集まりや説明会に参加しました。それだけではよく分からないところは、先輩お母さんに尋ねたり、学校側に問い合わせたりしました。親がカリキュラムをしっかりと理解することが必要だと感じたからです。また、保護者勉強会も主催し、先輩お母さんや卒業が決まった生徒に話をしてもらうといったミーティングを開催しました。いろんな疑問点を共有したことは大変よかったと思います。

IB校を選択してよかった!

IB校を選択してよかったと実感したのは、2章にも書いたようにG8になってからです。当時はG8から高校生としての扱いを受けていました。

まず、外国語として中国語を選択したことは、滞在しながらもシンガポールの現地の人々との強いつながりがないインター校に通った娘にとっては、中華系社会を理解する窓口となりました。英語が第一言語ではないところに中国語を足すことを躊躇していた親の心配をよそに、外国語として学んだ中国語は娘にとっては新しい学びとなり、難しい面もありましたが、中国語を母語として学ぶ生徒と一緒に学びました。日本語の漢字の知識が中国語にも良い影響を与え、同時に中国語を学ぶことが日本語の漢字力も伸ばしていたことが、後に日本語を母語として選択する際に分かりました。

そして、何よりアイデンティティーを見つめることを重視するIBの精神は、日本に住んだ記憶のない娘にとって、日本を知る重要性を植え付けることになりました。母としては日本語を母語レベルで身に付けることが重要だということを娘に伝え続け、娘もそれを受け入れ日本語学習を継続しました。

第一言語ではないからと英語の習得レベルを心配していたのが嘘のように、あっという間に英語が最も強い言語となって行く中で、アイデンティティーを重視するIBの目標をしっかりと理解した娘は、日本語を保持することの大切さも忘れずIBDPを満点の45点を取得して修了、Bilingual Diplomaも同時に取得、第一希望であったYale Universityに合格しただけでなく、卒業前に自分で応募していた世界一周の旅が一等に与えられるエッセイコンクールに応募していた娘は、大学の合格発表と同日に入賞が分かり、大学一年生の時に世界を一周する船旅を経験しました。そのエッセイコンクールでは、高校時代のボランティア活動について書いたことから、それが評価されて入賞したのでした。

IBプログラムでは全人格教育を目指します。そのため、いわゆる机の前で取組む学業だけに目を向けるのではなく、さまざまなボランティア活動を中心に、社会の重要な動きに目を向けることが重視されています。その精神をしっかりと理解していた娘は、UWCSEAの学生の頃からさまざまな社会活動に取り組んでいました。

一つは非核拡散についての取り組みで、これは、単に大学に入学するために行った活動ではなく、大学生になってからも全米非核拡散運動を行うグループで活動を続けました。他にも全校生徒によびかけて学内のルール改正に関わるなど、学校から与えられるボランティア活動だけにとどまらない、自主的な活動を数々こなしていました。

また、運動、音楽活動も卒業まで続けていました。このような多くの活動に取り組む姿勢は、IBプログラムの元で10年間を過ごしたからこそ受け付けられたのだと感じます。さらには、現在も人権弁護士としてNYでさまざまな課題に取り組んでいることにも繋がってきていると思う次第です。

まとめ

学校選択の際にはカリキュラムについてよく理解した上で選択することは大切だと思います。それでも、学校見学をした際に夫が見てよいと思って決めた生徒の多様性、課外活動の充実など、ピンとくる点があれば、それも大切な選択ポイントだと思います。

今回は「我が家の例」を挙げただけで、これが皆さんに当てはまるとは思いません。重視すべき点を別に置く方もいらっしゃるでしょう。本文にも書いたコスパも大きな選択ポイントだと思います。それが証拠に、ここ数年でIB校であり、いわゆる「低額」(とは言えない金額かもしれませんが)インターと呼ばれる学校が増えてきています。インター校は本当に多種多様であり、いろんな「決め手」がありますから、ご家庭で納得いく選択ができるといいですね。

磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校のご紹介

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。

様々な環境の子供たちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校は様々なコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

日本語文化継承学校の日本語教師募集

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご連絡ください。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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