海外大学に通う帰国子女現役大学生の体験談
中国現地校から公立校へ編入。帰国生高校受験・IB取得・海外大学進学までの道のりとは?
シンガポール日本人学生会NiSCにご協力頂き、シンガポール南洋理工大学に通う現役大学生を取材しました。帰国前に流した涙、海外生活・高校生活で得たもの、さまざまな感情が交錯しながら歩んできたこれまでの経験を幅広く伺いました。帰国生の皆さまにとって貴重な体験談です!ぜひ最後までご覧ください。
お話を伺った植田さんのご紹介
今回お話を伺ったのは、シンガポール南洋理工大学3年生の植田さんです。シンガポールと日本のハーフ(母が日本人)であり、中国で生まれて幼少期を過ごしました。中国の現地小学校から日本の公立小中学校に編入し、日本の公立中学校を卒業。その後、立命館宇治高等学校に進学し、IBを履修しました。
現在はシンガポール南洋理工大学で、環境科学と政治学を二重専攻しています。来年はオランダに短期留学する予定。趣味は読書、スキューバダイビング、コーヒーを淹れること、映画や音楽鑑賞です。
幼少時代
中国で生まれたため、第一言語は中国語でした。母は私に常日頃から日本語で話しかけて過ごしていたため、ある程度の日本語の聞き取りはできていたようです。基本的に日常会話は、中国語、英語は、約3〜4年ほど英会話教室に通っていた記憶があります。
小・中学校時代
◆現地校の小学校を選んだ理由は?
両親が日本人学校に見学に行きました。見学した際に、校風にそれほど魅力を感じなかったため、現地校を選択したと聞いています。また、当時は日本に帰国する予定がなかったこととも関係しています。
◆現地校の生活やカリキュラムは?
生まれと育ちが中国のため、今思い返すとローカルに近い意識や感覚を持っていたように思います。中国の教育は勉強競争の熾烈さで有名ですが、小学4年生までの滞在だったため、それほど大変な思いをすることはなく過ごしました。また、英会話教室に通っていたおかげで、英語は周りの子どもたちよりも少し得意でした。
現地校での授業で覚えていることは、美術や音楽、体育の授業には力を入れておらず、カリキュラムがあまりしっかりしていませんでした。よく美術や音楽、体育の授業が英語、数学と国語という主要3教科に変更されており、残念に感じていました。
◆現地校生活で大変だったことは?
大変だったことや悩んだことは、両親の日本帰国の意思が固まった際に、母が日本語教育に力を入れ始めたことでした。日本語を学ぶために日本人学校の授業に何度か参加しました。泣きながら、ひらがなとカタカナを習得したことを覚えています。
正直なところ他の中国ローカルの子どもたちとほとんど変わりなく育っており、中国にはとても愛着心を持っていました。その分、中国を離れると聞いた時は大反発!「日本に行きたくないから1人で中国に残る!」と言い張っていたみたいです。飛行機の中では泣き通しで母が困っていました。
また、スマートフォンなどもそれほど普及しておらず、今は当時の友だちと連絡が取れなくなってしまったことが残念です。
◆中国生活が大学専攻選びのきっかけに
中国の生活では、たくさん旅行をしたことが1番楽しかった思い出です。シンガポールで父方の家族と会い、お正月には日本に帰り、母の実家で充実した時間を過ごしました。また、夏休みは東南アジアを訪れ、国内もたくさん旅行しました。父が山登りやキャンプなどのアウトドアが非常に好きだったため、私も自然が好きになり、大学で専攻している環境科学に興味を持ち、学ぶきっかけになりました。
◆帰国後、日本の公立学校を選んだ理由は?
両親は国際色豊かでグローバルな子どもに育てたいというよりは、「郷に入れば郷に従え」のような新しい場所や異文化に触れ、その価値観を尊重するという思考を持っているため、中国でも日本でも現地校を好んで選択しました。また、入学手続きが簡単であり、学費が安いことなども理由になっています。
◆日本の学校生活で楽しかったことは?
日本の学校は、中国の現地校のカリキュラムとは違い、音楽や美術、体育などの授業が充実しています。私は絵を描くことが好きだったので、日本のカリキュラムはとても嬉しかったです。また、運動会などのイベントも多く、中国の小学校よりも楽しいと感じることが多かったです。
もう一つ印象に残っているものは、日本の給食です。中国と比べると見た目も非常にきれいでおいしく、とても感動しました。
◆日本の学校生活で悩んだことは?
日本語ができなかったので、私だけでなく先生や周りの生徒もどうすればいいのか戸惑っていました。カリキュラムで言えば、もともと算数が得意な方ではありませんでしたが、中国の方が英語と算数の進行が早く、一度習ったことなので、「英語と算数がとても得意な中国からの転校生」と周りには認識されていたように思います。
数カ月で日本語にも慣れ(母によると2カ月程度)、英語と算数以外の授業にもついていけるようになりました。もともと母が日本語で話しかけ、絵本の読み聞かせをしてくれていたことが役に立ったのではないかと思います。
日本の体育の授業で初めて水泳や鉄棒、跳び箱を経験しました。中国の体育ではなぜかラジオ体操ばかりだったので、水泳も鉄棒も跳び箱も見たことも経験したこともなく、とても困りました。
高校時代
◆高校受験や高校選び
実は高校(IB)は母の意向もあって、選びました。私は周りの友だちと一緒に公立高校受験する気満々でしたが、母に大反対され、たくさん喧嘩をしました。(今思うと思春期/反抗期だったかもしれません。)
周りの友だちと比べるとやはり英語は得意でしたが、それはあくまでも「英語を」学んでいたからです。母の「英語で」学んでほしいという考えと、大学とその先の将来につながる選択肢を考えた結果、高校を選びました。
高校受験は帰国生入試で、形式は数学のテスト、小論文/エッセイと面接のみでした。半年ほど、小論文/エッセイ対策専門の塾に通い、エッセイをひたすら書き続けました。帰国生入試で受験するつもりのなかった私にとっては地獄のような日々でした。
◆IBのメリット・デメリットは?
実際、IBを取得することで、母の思惑通り選択肢は広がりました。コロナ禍ではありましたが、日本の大学だけでなく、世界のどこの大学でも受験しようと思えば受験できる、というのはとても恵まれたことだと思います。
IBコースはインター校出身や海外で育った生徒が多く、私のように公立の中学校から進学する生徒は非常にイレギュラーで、私のクラスでも24人中私含めて2人だけでした。最初は英語力が足りず、授業についていくのが何よりも大変でした。とくに数学、物理、化学など、日本語でもついていけないのに、英語で…というのを常日頃悩んでました。
◆高校生活の宝もの
IBコースで1番嬉しかったことは素敵な友人たちとの出会いです。中国の現地校にいても、日本の公立校にいても、いまいち馴染むことが難しかったのですが、IBコースでは初めて心から馴染めていると思うようになりました。
また、IBだけでなく、立命館宇治高等学校という一条校なので、インター校のIB生とは違い、文化祭や体育祭などいわゆる「日本の高校生」らしい体験ができたことも嬉しかったです。
特に楽しかった授業は、国語(Japanese A standard level)です。IBの国語は文学の読解力ベースで、文学作品を読み、問いに対してエッセイを書くテスト形式でした。もともと本を読むのがとても好きだったので、国語だけは「勉強」と捉えることなく楽しんで取り組むことができました。
また、大学で2重専攻するきっかけとなったGlobal Politics Higher Levelの授業に出会うことができました。興味本意で履修した授業でしたが、考え、討論し、エッセイを書くことが想像以上に楽しく、現在、大学で2重専攻しています。
海外大学へ
◆海外大学への進学
高校3年の時点で、「自然が好きだから環境について学びたい!」という目標がはっきり決まっていました。その上で、引き続き「英語で」学びたいという思いもありました。日本国内では英語で環境学を専攻できる大学が非常に限られているため、海外の大学に進学することにしました。
◆大学選び・NTU(シンガポール南洋理工大学)を選んだ理由は?
大学選びは自分の学びたい学科/専攻(環境学と政治学)をもとに選びました。また大学のランキングもある程度は参考にしました。入学や受験当時は、NTUはQS(世界の大学ランキング)で13位だったので、これも含めてNTUを第1志望にしました。
NTUはランキングだけでいうとNUSには劣ります。しかし、個人的には環境学という学部だけで見ると、NTUの方が魅力的でした。環境学と政治学のどちらを選ぶか決めかねていた私にとって、環境学と政治学との2重専攻カリキュラムを実施していることに、運命的なものを感じました。小さい学部のため少人数で授業を受けられること、学校負担でインドネシアのバリでの研修旅行などがあることにも惹かれました。
また、私が父を通してシンガポールにルーツを持っていたことも大きな理由です。シンガポールに住んだことがなかったので、良い機会だと思いました。大学進学や治安、コスト面なども考えると、とても理想的でした。
◆大学受験で大変だったことや対策方法は?
大学はIB入試で受験しました。オンラインでのフォーム提出やIBスコアの提示、エッセイ(志望理由を軽く述べる)以外特になく、スコア重視の受験です。書類提出が主だったので特に大変な思いはせずに済みました。国語やGlobal Politicsなど、得意教科にはあまり時間をかけず、生物や数学など理解内容と暗記が重要な教科を重点的に勉強しました。
また、法学などの学部以外ではあまりないのですが、珍しく面接があり、オンラインで面接を受けました。面接に関しては、志望理由をきちんと述べる機会だと捉えていました。志望理由が自分の中ではっきりしていたため、あまり形式張ったことはせず、自分の思ったことをしっかりと伝えることを意識していました。
唯一の準備といえば、カリキュラムについてオンラインで下調べをしておくことだったと思います。志望理由や入学してからしたいことなど、よく聞かれるような質問についてきちんと考えを整理し、面接で答えられるようにイメージトレーニングすることも役に立つかと思います。
◆理系の帰国生にとって海外大学進学のメリットは?
日本にも理系の強い大学はたくさんあり、選択肢は幅広いと思います。しかし、私個人に限った話しにはなりますが、日本は環境学という分野において、ヨーロッパやシンガポールほど進んでないように思います。
理系の帰国生の方も、例えば、「Material Scienceについて勉強したい!」といった具体的に自分が進みたい分野を考えておくことによって、特にNTUはこの分野においては世界で1位のため、進学するメリットしかないと思います。
また、理系の方でも研究などに興味があれば、メリットはとても大きいと思います。研究界で最終的に重視されるのは、英語で出版できる論文です。海外の大学に進学することで学士のうちから英語で論文を読む、書くことに慣れることができるのではないかと思います。
さらに、就職する際にも、理系ができる、という1つの強みだけでなく、英語がネイティブレベルです、という2つの強みで自分をアピールできると思います。
◆語学力維持・向上に!おすすめ学習方法
中国にいたときは中国語の本、日本に来てからは日本語の本をたくさん読んでいました。今では中国語は昔ほど流暢ではなくなってしまいましたが、本はある程度読むことができます!語彙力に関しては、読書が1番だと思います。
シンガポールに来ても、日本語を使う機会は減ってしまいましたが、本をたくさん読み、日記を日本語で書くようにしています。語学力を向上したいのであれば、読書と実際に人と話すことがおすすめです。
帰国生へメッセージをお願いします
大学生活という4年間は短いですが、重要な通過点だと大学3年生になって感じることが多くあります。何をしたいかわからない、どこに行きたいのかわからなくても、たくさん考えることに意味があるように思います。
たとえベストな選択肢でなくても、自分がたくさん考えた末の結果であれば、自分の納得する、後悔のない選択肢になるのではないかと思います。もし、やりたいこと、行きたいところが決まらないことがあっても、たくさん考えながら、受験や勉強を頑張ってほしいですね。また、高校生活はとても貴重な楽しい時間です。皆さんも存分に楽しんでください!
取材協力:シンガポール日本人学生会 NiSC
2021年5月にシンガポールで学ぶ日本人大学生が運営を開始。発足以来、シンガポールの大学に通う日本人学生のコミュニティ形成やシンガポール国内での異文化交流の促進、日本におけるシンガポールの大学の知名度向上を目標に活動しています。
WEBサイトやInstagramでは、大学受験方法やキャンパスライフ、シンガポールの生活など、NiSCのメンバーの思う「入学前に知りたかったこと」を幅広く発信しています。NUSやシンガポール留学に興味がある方はぜひ活用下さい。また、シンガポールへの渡航・大学進学の相談も可能です。お問い合わせはInstagramのDMよりお待ちしております!
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