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【連載第1回 おうち英語】子どもに英語習得は必要?英語力を育てる第一歩

これまでバイリンガルについて、シンガポールにおけるインター校での日本語指導内容についてなど、日本語学習を中心に連載してきました。一方、英語習得についてもバイリンガルの観点から少し書いてきましたが、今回の連載では子どもにとって英語の習得が必要か、親はどのように関わるべきか、どの程度の習得が必要なのか、さらには、英語を習得したら日本語は習得できないのか、といった内容に分けて、私が考えるところを書いていきたいと思います。

第1回目の今回は、子どもにとって英語の習得は必要なのか、という根本的な問いに対する意見から書いていきたいと思います。まずは日本人のご家庭のお子さまたちの、日本における英語習得、日本語が家族の共通語のご家庭のお子さまたちの英語習得、つまり日本にお住まいの日本語が第一の言語のお子さまの第二言語(外国語)としての英語習得という前提でお話を進めていきます。

英語の習得は難しいのか

はっきり言いましょう。英語の習得は難しくありません。よく使うフレーズを覚えてそれを使うことで、会話は簡単に成り立ちます。

もし英語がそのように習得が難しい言語であれば、このように世界中で話される言語になっていません。ただし、どのレベルでの習得を意味するかに寄ります。幼稚園レベル?小学生レベル?中学生レベル?高校生レベル?そして、教養ある大人の話し言葉のレベル?さらには公式な場で使用する書き言葉のレベル?英語にももちろん書き言葉があります。文法的な書き言葉と話し言葉の違いは、日本語程大きくありませんが、話す時には、いわゆる「俗語」があり、砕けた表現があり、それがなんだか学校時代に習った英語と違う、ということで、「学校で習った英語なんて聞いたことない」というような思いになることもあると思います。

最近YouTubeでも「英語でこんな風には(本当は)言いません。」といった動画がたくさん見られます。しかし、そのような動画で説明されているのは話し言葉としてのフレーズであって、日本人が日本の学校の英語の教科書で学ぶ英語が間違っているわけではありません。まずは「日本で学ぶ英語はダメ」といったような動画に迷わされ、そそのかされて、「やっぱり、生の英語を学ばないと英語は習得できないから、学校英語は役に立たない」と日本の学校の英語を疎かにするのは第一の間違いであることは親として認識してほしいと思います。

英語は普遍的言語

そのようなことは、言うまでもないことでしょう、と思われるかもしれませんが、あらためて、英語が普遍的言語として世界で使用されているのかどうかから検証したいと思います。

まず、母語人口順位で見ると、第一位が中国語(人口9.2億人)、次いでスペイン語(4.7億人)、そして英語が第3位で人口3.7億人が使用する言語となっているそうです。しかしながら、英語は使用人口が多く、使用者の数の順位ではダントツ1位です(人口13.5億人)。(【世界の言語】使用人口と使用状況 | 【翻訳会社】インターブックス の翻訳外注ノウハウ

ちなみに日本語は、1.3億人が話す言葉で、使用されている言語の順位で見ると、世界で13位の言語です。また、母語話者の数を見ると、世界で9番目に多い言語です。既定の法律はないものの、公用語として日本語を使用しているのは現時点では日本のみです。(ネイティブスピーカーの数が多い言語の一覧 )

英語は、母語ではなくても公用語として使用され、日本語のように母語使用者≒言語使用者である言語ではないことから、汎用性のある言語であることは明白です。歴史的には、植民地化され支配された国々で英語が話されてきたことから公用語となっていることは、周知の事実ですね。また、アメリカの経済・文化的影響力も英語が伝播した大きな理由です。英語は文字通り普遍的な言語なのです。

なぜ日本人が英語の習得は難しいと感じるのか

では、どうしてこんなに日本人には習得に苦しんでいる人が多くいるのに、簡単に世界に広まったのだろうと不思議に思われることはないでしょうか?もちろん、上記したように、植民地で英語を公用語として強制的な使用を含めて話さざるを得ない状態に置かれたことが理由の一つですが、英語は比較的文法が簡単で、多少間違った使用をしていても、語彙の羅列で通じやすい環境が出来上がっているから、と言えるでしょう。

私には、このような経験があります。シンガポールのスーパーで買い物をしている時でした。スーパーのレジ打ちの若い女性が、レジを挟んで大声で同じくレジ打ちの女性に話しかけていました。間もなく彼女の業務時間は終わろうとしていたのでしょう。もう一方の女性に何時に今日は帰るのかを尋ねていました。”You go home what time?” 耳だけで聞いていた私は、思わずその発話者の方を向いてしまいました。思ったことは、「ああ、何時に家に帰るかって尋ねているんだなあ」でした。

英語はこのようなBrokenと呼ばれる文章でも、お互いに意思疎通ができています。発音もです。シングリッシュと呼ばれる英語は、最初は、「え?今、英語で話しかけられた?」と思ったほど、私が知っているアメリカンイングリッシュの発音との違いにより、まったく何を言っているのかわからない場合もありましたが、だんだんと慣れました。

これが日本人同士の場合は、どのようになるのでしょうか?

日本語が変だということで相手にしてもらえない?もしくは、間違っていると直される?私も日本語を指導する教師であるため、立場上、日本人であっても外国人であっても間違いを指摘すると思いますが、日本の社会では外国人の間違いは許容するかもしれないものの、このようなBrokenな英語に対応するような日本語は、日本人が使用する公に通じる日本語としては認められないでしょう。

日本語と比較してみると分かるように、英語は変容を許し、多様性を持つ、幅広く使用されやすい言語なのです。日本語がというより日本の社会が、いわゆる正確な日本語でないと日本語として受け入れないことが多いからとも言えるので、日本語の問題ではなく、受け入れに寛容ではない日本社会の問題なのかもしれません。

ではあらためて、なぜ、日本人は英語習得が難しいと言うのでしょうか。

私は英語教師として、そして日本語教師、日本文学指導者として、(アメリカ、シンガポールの英語圏2国にしか居住していませんが)かれこれ30年ほどの期間、日本国外に暮らして来て、自分の子どもや、生徒たちの英語習得にも関わってきた中で、日本人にとって英語習得において何が困難な理由となっているかという疑問について考え、自分なりの答えを出しています。

その一つ目は、聞き取りの難しさが習得を邪魔しているのではないかと考えています。

日本語の母音は5つだけで、例えば、英語の発音記号/æ/の音も、 /ɑː/、/ʌ/、/ə/のすべてが「あ」とまとめられるように、一つの母音の守備範囲が広く、そのため多少の音の違いはあるものの、聞き分ける必要がないことから、なかなか外国語の音に耳が慣れないという事実があります。

つまり、汎用性の高い英語は、Brokenでも受け入れられるからこそ広まってきた言語であることを理解し、話す時の発語の間違いを気にするより、まずは音に慣れるほど聞くこと、それもPhonicsという、スペルと音の関連性を学んだ上で、多くの英語の文章を聞くことで、ずっと習得が楽になるのではないでしょうか。日本に住む日本人にとっては、たとえ今、外国人観光客がたくさん日本にやってきているとはいえ、英語を聞く機会そのものが少ないのだと思います。

英語の音に慣れるためには

英語習得のためには、できるだけ多くの機会を捉えて、英語を聞くことだということは断言できます。ですから、幼い頃から英語の音に慣れるということは、英語の習得を確実にするには意義のあることですから、どんな英語でも構いません、Brokenだってかまわない(と私は思います)ので、どんどん英語を聞く機会を作る。これこそが一つの習得を促す方法だと思います。

つまり多くのInputが必要だということです。よく「英語を浴びるほど聞く」といった学習法が宣伝されているのを聞かれると思いますが、まさにそれは「耳を慣らす」という意味で正しい学習法です。

しかし、ここで、私がこの第一回で書いている大前提を思い出していただく必要があります。私は、母語レベルで日本語も英語も、それも同程度に完全な教養ある大人のレベルの英語と日本語が両方を身につけられる方法について書いているのではありません。

このあと、第2回以降で、「子どもの英語習得に親はどのように関わるべきか」「どの程度の英語習得が必要なのか」といった内容を書く中で、バイリンガルについても書いていきたいと思っていますが、あくまで、この第一回の前提は、日本に住み、外国語/第二言語としての英語を身に着ける、ということです。

そのためには、できる限り多くを習得できるように、学校教育を含め、英語指導の際には英語の音を聞かせる機会を増やすのと同時に、英語のスペルと音との関連性を指導し、フレーズの暗記を促し、どんな場面で使えるのかと併せて指導していくことだと考えます。そうすることで、まずは簡単な会話ができるようになるでしょう。

「子どもにとって英語の習得は必要なのか」という今回の命題に対しては、現代社会において「英語を話せない」状態では仕事をすることも難しいでしょうから、間違いなく「必要だ」と回答することになります。

このように、本稿ではまず「子どもにとって英語の習得は必要か」という問いに対し、「現代社会を生きる上で必要不可欠である」と結論付けました。

英語が難しいと感じる日本人が多い背景には、日本語と英語の音の違いからくる「聞き取りの壁」や、間違いを恐れる完璧主義的な姿勢があると考えられます。しかし、英語は本来、Brokenであっても意思疎通を可能にする懐の深い「普遍的言語」です。

したがって、子どもの英語習得における最初のステップは、完璧な文法や発音を求めることではありません。まずは英語の歌や動画などを通して、生活の中に英語の「音」を溢れさせ、耳を慣らすこと。そして、簡単なフレーズを覚えることからコミュニケーションの楽しさを体験させることが重要です。学校で学ぶ英語を基礎として大切にしながら、家庭では「英語は楽しい」「間違えても大丈夫」という前向きな雰囲気を作ってあげることが、子どもの未来の可能性を広げる第一歩となるでしょう。

次回は、この考え方を基に、親として具体的にどのように関わっていくべきか、そしてどの程度の習得レベルを目指すのがよいのかについて書きたいと思います。

磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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