【〜連載〜】第5回IB生になる前に取組んでおきたいこと
~IB日本語A文学の学習方法をご紹介~
こんにちは、磯崎みどりです。インター校の新学期が始まりましたね。今年からIB生となる生徒の皆さんも数多くいらっしゃることでしょう。今回はインター校の新学期が始まるにあたって、特にIB日本語A文学の学習の仕方について書いてみたいと思います。
反復練習はIB Language A Literature(日本語A文学を含む)に必要?
YouTubeを見ていると、どんな学習法が最も効果があるのか、といったことを淡々と語る動画がアップされています。YouTuberの皆さんは、少しでも多くの方にアクセスしてほしいため、魅力的なタイトルを付け、まるでその学習法さえやってみれば、どんなテストでも合格する、というような内容が見られます。そういう私も、どういう動画が巷で見られているのかと、一応見てみるのですが、一つだけ確実なことが言えるのは、「これさえやればという学習法はない!」ということです。
YouTube他、いろんな動画やサイトを参考に、自分に合った学習法を見つけることは大切だと思いますが、IB文学でしっかりと理解を深めることを目標とするにあたり、学習法で大切なことは、とにかく「課題の文学作品を詳細まで読み、書かれている語彙などの意味を理解し、作者の意図するところ(主題)を理解するだけでなく、常にその作品の表現方法が読者である自分にどんなことを伝えているかという効果を考え、さらには今まで読んだことがある作品との類似点、相違点などを考えながら読むこと」だと思います。
今まで読んだことがある作品との比較は、現在読んでいる作品の内容を読みながら形を変えてたどることになります。また、今まで読んだ作品を思い出す活動は、アクティブリコールに繋がります。アクティブリコールとは何かということについては、次の書籍を参考にしてください。
また、この書籍に書かれているポイントを簡単に7つのポイントにまとめたサイトも次に記しておきます。ご興味のある方はお読みください。今までにすでにやっていることばかりだ、という方は、正しく記憶をとどめる方法に取り組んでいたと、自信を持っていただくことができるのではないでしょうか。
◆サイト
IBは記憶を問うカリキュラムではない、という説明をきいたことがあるかもしれませんが、学習したことをまったく記憶しなくてよい学習法などありません。漢字練習に取り組む、といった単純な学習法だけが必要なわけではありませんが、やはり最低限の文章理解のためには、漢字習得を含む反復練習も必要だと言えます。
それでも、IBのテストは、どの科目もどれだけ覚えているかという記憶だけを問うものではないことはたしかです。自分の言葉で理解した内容を言い換えられる、もしくは、暗記したことも含めて、単語の羅列ではなく文章で説明ができることが必要です。
IB生になる前に取組んでおくことは?
良く尋ねられるのは、「IBが始まる前にやっておくべきことは何ですか」という質問です。質問する方は、どの本を読んでおくのがよいかや、漢字は漢字検定何級まで必要ですか、などと尋ねられるのですが、もちろん日本語の文学作品を数多く読んでいれば、授業で選択された作品をすでに読んだことがあるというメリットになったり、漢字を数多く習得していれば、読み書きに困らないなど、メリットは確実にあると言えます。
ただ、私は個人的には、そういうメリットは基本であって、IB生になるまでに文学的センスを磨くことがIB Japanese A Literatureには必要だと感じます。そのためには、常に素晴らしい芸術作品に興味を持つ、話題の映画を見る、面白そうだと思う講演会や興味のあるスポーツ選手の話を聞く、そういった内容を書いた文章を読む、など、身の回りに起こるすべての文学に繋がる事象に興味を持って、聞いたり読んだりすることが重要だと思います。そして、そういう内容を聞き読んだ内容に対する自分の感想を誰かと話し合い、さらには書き留めておくことは大きな効果を生むでしょう。
日本語A文学の授業は、単純に日本語を読み書きできるだけを求める科目ではないことを理解した上で、ぜひ、文学作品に数多く触れてほしいと思います。
実際にIB Japanese A の学習が始まったら
文学作品を読む際、国語の学び方と大きく違うことは、その後に「感想文」を書くのではなく「分析文」を書くということでしょう。そして、その「分析」を書くためには、読んでどう感じたか、だけではなく(それも必要ですが)、作品を書いた人、つまり作者がどんな書き方をしているか、つまり、その文章を書くために工夫していることは何か、作者が自分の思いをどのように伝えているか、ということを「分析」することが必要なのです。
作品の内容の要約や、説明するだけでは足りません。作者目線で、こういう語彙を使用する時にはどんな思いを伝えようとしている時なのか、こんな順番で文章を書くということは何を強調して伝えることができるのか、など、「書き方」を見ていくことが大切だと言えるでしょう。
そのためには、ぜひ何度も作品を読み込んでください。ざっと目を通して、あらすじを理解するだけでは足りないため、じっくりと一語一語の意味を考えながら読むことが大切です。そして、内容をしっかり理解した上で、その作者の「書き方」について、論理的に説明できる力が必要です。
「私は/僕は理系なので、文学の勉強が向かないと思います」と言ったことを言う生徒がいるのですが、文学嫌いで本を見るのも嫌、という生徒には勧めませんが、いわゆる理系の論理的思考が好きな生徒には、実は合っている科目だと言えるかもしれません。それぐらい分析する文章には、論理性が必要です。
まとめ
じっくりと作品を深く読み込むことが重要であることは、文学を学ぶ上で大切なのは誰もが理解できることでしょう。ただ、国語の問題のように、下線部が引いてあるところだけに答えればよいのではなく、自分でその下線部にあたるところを見つけることができる、そして、自分なりの答えを見つけられる、ということが大きく国語とIB 日本語A 文学と違うところと言えるのではないでしょうか。ぜひ、文学を楽しもうという心意気で、論理的に作品を分析する喜びを多くの生徒の皆さんに知ってほしいと思います。
磯崎みどり氏ご紹介
継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。
アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。
英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。
自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。
日本語文化継承学校のご紹介
日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。
様々な環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。
詳しくは、ホームページへ
日本語文化継承学校の日本語教師募集
継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご連絡ください。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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