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【連載 日本語補習校とは?】第1回 日本語補習校とは?継承語とは?詳しい意味を徹底解説!

磯崎みどりです。シンガポールに居住してあと少しで4半世紀になろうとしています。最初の10数年の間にアメリカワシントンDC地区とシンガポールの「補習校」で指導、そして現在10年を超えて「継承校」での指導、運営にあたっています。

また、昨年2023年12月には、外務省所管の独立行政法人国際交流基金が主催する、「海外在住の日本につながりのある子どもたちの日本語教育」の今後を考えるミーティングにシンガポール代表として参加し、今後も引き続き「継承語」の子どもたちの日本語指導に当たっていきたいという思いを強くしていたところです。

今回の連載全体では、「補習校」と「継承校」の両者の定義から始め、シンガポールでの現状を中心に、両者での指導経験のある私だからこそ伝えられることを書いていきたいと思います。そして、第1回の今回は、そもそも「補習校」とは何か、それに対する「継承校」と呼ばれるもとになっている「継承語」とはどういう言語を指すのかといった、定義から始めたいと思います。

「補習校」とは? 

最初に、「補習校」について、文部科学省の定義を記載します。

「補習授業校は、現地の学校や国際学校(インターナショナルスクール)等に通学している日本人の子どもに対し、土曜日や放課後などを利用して国内の小学校又は中学校の一部の教科について日本語で授業を行う教育施設です。日本人学校と同様、現地の日本人会等が設置運営主体となっています。昭和33(1958年)年に米国のワシントンに設立されて以来、令和6年7月1日現在では、世界51カ国・1地域に242校が設置されており、令和6年4月15日時点で約2万1千人が学んでいます。教育の特色としては、国語を中心に、施設によって算数(数学)、理科、社会などを加えた授業が、国内で使用されている教科書を用いて行われています。」
(文部科学省在外教育施設の概要より)

私がアメリカワシントン地区に住んでいた時に指導に当たった「補習校」は、この上記の「米国のワシントン(DCを意味します)に設立」された最初の補習校「ワシントン日本語学校」でした。この学校は後に「補習校」と「継承校」に枝分かれします。その事情については後に回すとして、次にシンガポールの「補習校」について見てみましょう。

シンガポールの「補習校」の正式名称は「シンガポール日本語補習授業校」であり、Wikipediaによると次のように書かれています。

「シンガポール日本語補習授業校はシンガポールにある現地校やシンガポール日本人学校以外のインターナショナルスクールに通う日本人生徒向けの補習校。1992年にシンガポール日本人会の一室からスタートした。1994年に外務省、文部省から補習校として認可され、1996年にはシンガポール政府教育省から認可された。2009年現在はシンガポール日本人学校クレメンティ校の校舎で開校している。」

「補習校」は文部科学省の「在外教育施設の認定基準、運営基準及び認定の手続き等」を経て正式に認められて初めて正式な「補習校」となります。シンガポール日本語補習授業校が「補習校」として認可を受けるまで、スタートから2年の月日が必要であったことがお分かりになると思います。

「補習校」という名前は、「補習をする学校」という意味で名付けられた学校はほかにも見られるようですが、現在、シンガポールで正式に文部科学省から認可を受けているのは、この「シンガポール日本語補習授業校」のみです。「シンガポール日本語補習授業校」では、入学試験を課し、十分な日本語力がないと判断された児童への入学は許可していません。当校ホームページのQ&Aの中では次のようにその意味を説明しています。

「本校(シンガポール日本語補習授業校)においては教員数の増減により学級数が確定し、教員数の維持・確保が容易でない状況であるため、 入学希望者全員を受け入れることができません。 また、本校は短時間で日本の学習指導要領に準拠した国語科の学習を行っていますので、「入学資格」 (国語力、態度ともに本校での一斉授業に支障がないこと)を確認するためにも入学試験を行います。」

これは、世界中に広がる数ある補習校の中でも数少ない対応と言えます。「補習校」のうち、入学時にテストを課すところが多くあるとはいえ、そのテストはレベル分けやクラス分けのためであり、テストによって合否を決めている「補習校」は私が知る限りは「シンガポール日本語補習授業校」のみです。

「継承校」のもとになっている「継承語」とは?

「継承校」に当たる教育の場は、さまざまな形で世界中に見られます。でも何より、まず「継承語」とはどういうものなのかというところから始めましょう。継承語研究者の第一人者である中島和子氏によると次のように定義されています。

「「継承語 」とは、親の母語、 子どもにとっては親から継承する言語であり、 「継承語教育」とは親の母語を子に伝えるための教育支援である」

これだけでは少しわかりにくいかもしれません。マリア・ポリンスキーという学者は、言語習得の順番についても定義しているため、もう少しわかりやすいでしょうから、見てみましょう。

「習得の順番から言うと第一言語だが、その国の主要言語に移行したために(第一言語として)完全に習得しなかった言語」

ただ、「完全に習得しなかった」というのがどういう状態なのかは明確ではなく、さらには、父親の母語と母親の母語が違う場合、習得の順番で第1言語は何なのかという問題もあります。したがって、「継承語」はそれぞれの子どもにとって、どのような言語環境の中で成長してきたかによってどれを「継承語」と呼ぶのか、または「継承語」なのか限りなく「第2言語」に近いのか、など大きく定義に幅のある言語であると言えるでしょう。

これだけ定義にも幅のある「継承語」ですから、シンガポールにも表には出てこない継承語として日本語を使う子どもたちに日本語を指導する小さいサークルや、第2言語として学ぶ子どもたちが通う教育施設などは、数多くあると考えられます。

2018年の国際交流基金の推計によると、全世界の海外永住組の就学年齢にある日本に繋がる子どもたちの数は全世界で30万人に上るのではないかと推察されていて、そのうち、日本政府管轄の教育機関(日本人学校、補習校)で学んでいない子どもたちの方が日本政府管轄の教育機関で学ぶ子どもたちの数より多いだろうと言われています。

実際、そういった教育機関で学んでいない子どもたちが、日本語を学んでいるのかいないのか、もしくは政府管轄外の教育機関(日本語学校を含む)で学んでいるのか、全貌は未だ把握されていない状態です。

しかし、そんな日本に繋がる子どもたちへの日本語教育についても、できる限りの支援をするということを決めた日本政府の方針に基づき、その方法や教材などについて話し合うミーティングが、冒頭に書いた2023年12月に私がシンガポール代表として参加した集まりです。

上記「補習校」の説明の中で、「シンガポール日本語補習授業校」が日本で使用される教科書をそのまま学習指導要領に準拠した国語科の学習を行っていることを明らかにしているのに対し、「継承語」として日本語を使用する子どもたちには、日本で学ぶのとほぼ同じように日本語を学習することは負担でしかない場合もあります。

日本の検定教科書をそのままの形ではなく、指導の工夫が必要となるケースが多々見られます。どんな工夫がよいのかについては、子どもたちの言語背景、置かれた国の言語教育など、さまざまな条件を勘案して決めていかなければなりません。

2011年に創設し、現在に至るまで運営を続けてきた、「シンガポール日本語文化継承学校」については、その経緯とともに、次回にどのように指導内容を決めているかなど、詳細をお伝えしたいと思います。

磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

日本語文化継承学校の日本語教師募集

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご連絡ください。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

<参考>
2021年度海外日本語教育機関調査 結果概要
際交流基金とは
Keisho Nihongo
「継承語学習者」の定義について考えたCarreiraを読みました。(2004)

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