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【連載 日本語補習校とは?】第2回 日本語補習校で学べる大切なこと~シンガポール日本語文化継承学校をご紹介~

磯崎みどりです。前回の第1回では「補習校」の定義、シンガポールの「補習校」である「シンガポール日本語補習授業校」について、そして、「継承校」と呼ばれ学習機関には、実際は小さなほんの数名の子どもたちに指導を行うサークルのようなものや塾のようなものもありますが、そういった学習機関の呼び名として使用されることがある「継承語」という言葉の定義について詳細を書きました。

今回第2回は、その「継承語」となっている言語を学習言語として指導している場である「継承校」について詳細を書いていきたいと思います。まずは私が校長として運営と指導に携わっている「シンガポール日本語文化継承学校」について紹介していきたいと思います。

学習言語とは、ある分野・教科を学ぶときに思考の操作として使われる言語のことです。「学ぶ」ということには、ある概念を理解するということが必要不可欠になります。その特定の「概念」を定義するには、メタ言語と呼ばれる言語理解が必要です。このメタ言語を道具として捉えたものが、学習するために必要な言語という「学習言語」です。

【連載】
連載 日本語補習校とは?】第1回 日本語補習校とは?継承語とは?詳しい意味を徹底解説!

①シンガポール日本語文化継承学校設立の経緯

最初に、シンガポール日本語文化継承学校(以下、継承学校)設立の経緯から始めます。継承学校は2011年10月、Farrar Rdに位置するCity Square Mallの一室で、19名の生徒に日本語と日本文化を指導する学校として始業しました。きっかけは、その年の3月、シンガポール日本語補習授業校を新1年生となるべくして受験した子どもたちの半数近くが不合格となったことで、塾ではない日本の教科書を使って国語を指導してくれる学校にご自分のお子さまを通わせたいと思う保護者数名からの指導希望を受けて設立しました。

私自身、当時補習校の教師をしている中で、2011年以前にも不合格となる児童がいることに心を痛めており、特に私が指導した児童の弟妹が不合格になったということで相談を受けることもあり、日本語を学びたいと考える子どもたちは誰でもが学ぶことができる学校の設立を急ぎました。2011年10月には、MOEからの許可を得て、学校として授業を開始する準備が整いました。まずは4月に補習校に不合格とされた児童を中心に小学国語コース1年生と3年生のクラスを開始し、翌年2012年4月には新1年生を迎えて1年生から4年生までのクラスを開講しました。そして、2013年1月から現在のAlliance Francaise(以下、AF)の教室を借用して授業を開始し、今に至っています。

設立の裏話はいろいろありますが、次回に回すことにして、次は、継承学校の特色について書きたいと思います。

②継承学校の特色

2013年4月には、1月にAFに教室を移動したこともあり、小学国語コースに加え、幼稚園児のクラスである、あいうえおコースの開設(当時は年中、年長を受け付けていましたが、現在は年長児だけのコースとなっています)、同時に、当時はまだ小学5年生までの生徒しか在籍していませんでしたが、彼らがやがて中学生の学齢になった時のことを考え、中高生コースも開設しました。

中高生コースでは国語教科書は使用せず、実社会の中で読まれる新聞記事や雑誌、またはオンライン記事やブログなどを読みこなせるようになることを目標としています。最終的な到達目標は上級クラスで、外国語としての上級レベル(Aレベル相当)の内容を読み理解できるようにすることです。

一方、国語の教科書を学習するには難しい、あまり日本語に多く触れてこなかった、もしくは、そこまで日本語学習に時間を取られたくない児童のためのクラスとして国際コースも同時に開設しました。現在もこの4つのコースで授業を行っています。

継承学校の特徴はいろいろありますが、大切にしていることが3つあります。

1つ目はコミュニティーづくりです。言語というものは、使わなければ本当に身に付くものではありません。継承学校がコミュニティーづくりを大切にしている理由は、保護者同士が、子どもたち同士が仲良くなり、学内・学外共に授業の中で、また一緒に遊ぶ時間の中で日本語のコミュニケーションの機会を増やしていくことができると信じているからです。保護者の皆さまのボランティアの機会や保護者勉強会の開催、また児童たち同士も机の前に座って問題に取り組むだけではなく、お互いに交流できるような授業構成を心掛けています。

その授業のハイライトともいえるカリキュラムは2つ目に大切にしていることで、プロジェクトの時間と呼んでいます。教科書で学習したことを実際に使って、同じ学年の他クラスや、他学年に発表したり、日本文化を学ぶにあたっては、シンガポールの文化との比較を行いながら学んだりすることで、知識を机上の物だけとしない取り組みとなるようにしています。さまざまな文化活動に触れることも大切にしています。

そして3つ目に大切にしていることは、卒業生を含む高校生や大学生のお話を聞くトークの時間を設定していることです。外部の方々のトークを聞くこともありますが、児童が自分たちの先輩にあたる人々のお話を聞くことで、自分たちの未来の姿をイメージすることができると考えています。また、卒業生を含む高校生ボランティアが児童の学習をサポートしてくれるのは、高校生、そして継承学校の子どもたちのどちらにとっても良い影響を与え合う効果を生んでいます。

③継承学校を選択する意義

保護者の皆さまにとって、ご自分のお子さまの日本語学習の場を選ぶにあたり、さまざまな選択肢があるシンガポールでは迷われることも多いと思います。補習校はシンガポールに1校開講するのみであるため、年々増えている国際校に通う生徒の受け入れに対し、テストを課していることは前回の補習校についての説明で記載しました。シンガポールには多数の塾が存在するため、それぞれのお子さまの学びに合わせて塾を選択肢に入れられることもあるでしょう。

では、継承学校(シンガポール日本語文化)を選択する意義とは何でしょうか。

それは、継承学校は、塾のようなプリント学習を中心に教科書を理解するための学習を行う場ではなく、継承語としての日本語が、学習言語として定着できるようにする場として設定していることです。単なるプリント学習や、教科書を理解するための学習ではなく、実生活の中で使える、文字の読み書きまで履修できるような、継承語の特色、つまり長所・短所を理解した上で教案を組み立てて授業を行っていることです。クラスの中にはいろんな子どもたちがいます。小学国語コースは、子どもたちの日本語力でクラス分けをしているわけではないので、日本語の読みが弱い子、強い子、話すのが苦手な子、得意な子など、いろんな子どもたちがいます。その様子は、さながら日本の公立、国立の学校のようです。

選ばれた子どもたちだけのクラスではないことが生み出す、多様な力を活かして力を伸ばしてほしいと考えています。

そんな継承学校の2025年度の学校説明会は、1月26日、校舎を借用しているAlliance Francaise4階セミナールームにて、2時~3時に開催いたします。授業の様子をビデオでご覧いただき、学校方針、授業内容に続いて、実際にお子さまを通学させていらっしゃる保護者から本音のお話をお伝えいただく予定です。ぜひ、以下のURLから学校説明会にご参加を登録いただき、説明会の場でこの記事の読者の皆様とお会いできるのを楽しみにしています。

日本語文化継承学校 学校説明会参加申し込み


磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

日本語文化継承学校の日本語教師募集

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご連絡ください。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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