HOMEお役立ち記事【連載 日本語補習校・継承校とは?】第4回 シンガポール日本語文化継承学校設立秘話!~教室探し編~ 

【連載 日本語補習校・継承校とは?】第4回 シンガポール日本語文化継承学校設立秘話!~教室探し編~ 

【連載】
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磯崎みどりです。多くのシンガポールのインターナショナルスクールでは、6月のお休みを目前にして、上級学年はテストや評価のための課題提出に忙しく、低学年は気持ちはもう少しで夏休みという時期なのではないでしょうか。シンガポールのローカル校ではすでにお休みで、心はもうシンガポールにあらず、でしょうか?

さて、シンガポールでは、時々「読んでます」と連載をお読みくださっている読者からお声がけいただいたり、日本からは読んでいる旨のメールを頂くことがあるのですが、この度UAEから読者のSさんがご連絡くださったのが、一番うれしいことでした。少しでも私の知る、教育に関わる現状、理論などについて、今後も書いていけたらと考えています。

そんな中、この連載の最終回を2回に分け、継承日本語を話す日本につながる子どもたちの学校である「継承校」のあるある設立秘話を書いてみたいと思います。

シンガポール日本語文化継承学校を始めるまでの場所探し秘話

世界中に散らばる、継承校と言われる学校、教室には共通して通る道筋があります。つまり、最初は小さなグループで始まること、そして少しずつ規模が大きくなる中で、場所をどうするか、先生をどう確保するか、といった悩みを抱えることです。

シンガポール日本語文化継承学校も、設立にあたっては、まずは教室探しに奔走しました。そもそも日本人小学校が2校、中学校、そして、早稲田系列の高校まで揃っていて、さらに補習校も設立されていて、さらに多くの学習塾もあるシンガポールにおいて、本当に継承語として日本語を話している子どもたちのために学習の場を設ける必要があるのかどうかということも考えてみないといけない課題でした。

しかし、シンガポール日本語補習校がテストによって合否を決め、補習校で日本語を学びたくても、不合格となったことで学ぶことができない子どもたちが増えたことで、私に個人指導を頼んでこられる保護者も出てきました。この辺りの経緯については、連載第2回にも書いていますので詳細は割愛しますが、結局、国語教科書と日本の文化について指導する学校で、主な対象者は海外に長期居住するご家庭の子女、ということでシンガポール教育省から学校としての許可を得て始めることになりました。

さて、学校としての許可を得て、生徒数は当初19名、2学年のクラスを設定したため、2部屋さえ確保できれば授業を始められるので、簡単に見つかるだろうと思っていました。

しかし、場所探しには本当に苦労しました。

「日本につながる子どもたち」のための教室であることを伝えて問い合わせたシンガポール日本人会は、会員のみが教室を使えるということで、シンガポール人として居住するご家庭や、海外に長く滞在するご家族が日本人会の会員として登録されているのか?を検討し、残念ながら日本人会の教室を借用することはあきらめました。その後は、シンガポールの空き教室があるという噂を聞いた場所には、あっちにこっちに出かけて行って貸してもらえるかを交渉しました。

ある場所は生徒数が増えた時には拡大できない小さな教室があるだけで諦め、ある場所は子どもたちが遊べる場所まであるものの、それは屋上であるにもかかわらず囲いがなく、子どもたちがビルから落ちてしまったらどうしよう!と考えただけで身震いして諦めたり、日曜日だけの開講であるにもかかわらず、一週間その場を借りないなら貸し出せないと言われたり、と、さまざまな理由であきらめざるを得ない中、やっとあるショッピングモール内に見つけた貸教室2部屋で授業を始めました。

教室が映画館に!?

しかし、なんと、1か月もたたないうちに、来月この教室は取り壊しとなり、映画館になると言われたのです。これは、シンガポールあるあるで、ショッピングモールの場合は仕方がないことでしたが、一旦始まってしまった学校の教室を、遠く離れた場所に見つけ直すことは、児童の通学にも影響を与えるため、同じモールの中に部屋を確保したいと考え、今度は文字通り同じ建物の中の教室にできそうな場所を一軒一軒尋ねて回りました。

「貸していただける部屋はないでしょうか?」と使っていない教室がないか、2部屋だけ貸してもらえたらいいので、と尋ねて回ったものの断られ続けました。何教室かを回った後、もうだめかも、と思った矢先、同じように尋ねた中国語を教える学習塾が、日曜日だけならどうぞ、と快く場所を貸していただけることになりました。

実は、実際に借り始めてから分かったことですが、その中国語学習塾は、どうも大きな場所を借りていたものの、思ったように生徒が集まっていなかったのか、空いたままの教室があったのです。早速、教室借用の契約を交わし、中国語教室に自前の机と椅子を持ち込み授業を始めました。翌年には一学年増えることになり、教室が足りなくなると、また同じモール内の別の学習塾に場所を貸してもらえないかを尋ね、少しずつ拡大していきました。

すると、私たちのクラスがどんどんと生徒を増やしていることを見た中国語学習塾のオーナーは、「どうやって生徒を増やしているんだ?」と会うたびに尋ねてくるようになり、挙句の果てには、「今度インドネシアに教室を開こうと考えているんだけど、一緒にやらないか?」という誘いまで受けました。

落ち着いた先は・・・

その後、さらに学年が増え、教室数が増えることになりそうだと考えていた矢先、新しく借り始めた学習塾が、教室移転となるため、来月から今貸し出している教室は使えないと言われてしまいました。

さあ、大変!せっかく同じビルの中に十分な教室数を確保でき、落ち着いたと思ったらこれです。この頃のことを思い出すと、毎日携帯電話が鳴ると、また何か事件が!?と思い、受け答えするのが怖かったほどです。

極小国であるシンガポールは、当然土地代が高く、各モールは、より大きな利益を出せる業態のテナントを募集することから、入れ替わりが激しくても仕方がないことと納得し、新しい場所を大急ぎで探し始めました。

フランス語学校の教室が日曜日なら空いているらしい、という話を聞きつけ、なんとか教室を借りられないか、一か八かで問い合わせてみたところ、日曜日だけなら使用していないからと、すんなり借用が認められました。

語学学校であるフランス語学校に移ってから

現在校舎を借用している、フランス語学校(Alliance Francaise)の場所に移動した後、しばらく以前の中国語学習塾がテナントであったモールに足を踏み入れることはありませんでしたが、今となってはその中国語学習塾も別のテナントが入り、跡形もなくなってしまいました。

以前のモールでの授業では、お昼ご飯の時間は生徒たちと一緒にモールのテナントである和食レストランに並んで移動し、そこで昼食を食べてからまた教室に戻って授業を行うという形式でした。

和食のレストランには子どもたちのためのメニュー作成をお願いし、本当に楽しく給食時間を過ごしました。その当時の子どもたちは、すでに大学生、もしくは社会人となっている年齢ですが、教室をフランス語学校に移してからも、しばらくはそのレストランでの食事を懐かしむ子どもたちもいました。そして、フランス語学校に移動してからは、和食のお弁当を配達されている業者様に子ども向けのお弁当作成をお願いしました。

シンガポール日本語文化継承学校では、シンガポールのインター校や現地校では経験できない、「みんなで同じ食事を食べる」ということを食育の一つとして取り組んでいます。

マイ箸を持参することもその一環で、お弁当配達をしてくださる業者様には、季節の行事に合わせた食事やキャラ弁を作成していただいています。好き嫌いがあったり、提供されるお弁当の味が好きではない子どもたちもいますが、お弁当の時間は子どもたちにとって大切な交流の時間となっています。

お弁当のことはさておき、フランス語学校は絶好の場所に位置し、MRTが2路線乗り入れている駅のすぐ横にあるため、非常に交通の便がいいことは、児童のご家庭にとって継承学校にアクセスが良く、通学が便利であることは大変ありがたいことです。フランス語学校の経営陣とも大変気持ちの良いお付き合いができており、あっという間に来年15周年を迎えます。

次回は、教員の確保について書いてみたいと思います。

磯崎みどり氏ご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

日本語文化継承学校の日本語教師募集

継承学校は、継承語として日本語を学ぶ子どもたちを応援する学校です。
一緒にそういった子どもたちを指導してくださる教員を募集しています。
詳細を知りたい方は、sjkeisho@yahoo.co.jp にご連絡ください。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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