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【連載第3回 おうち英語】子どもの英語力はどこまで求める?日本語とのバランス

磯崎みどりです。連載第2回目には、私自身の経験も混ぜ、子どもに英語を学ばせる場合、早ければ早いほど習得が早いわけではない、また、親が2言語をつなぐ役割を果たす重要性について書きました。「子どもの英語習得」の連載3回目は、どの程度の英語習得が子どもにとって必要なのかと、英語の習得によって日本語の習得にどんな影響があるのかについても書いてみたいと思います。

【連載】
・【連載第1回 おうち英語】子どもに英語習得は必要?英語力を育てる第一歩
・【連載第2回 おうち英語】子どもの英語習得!知っておきたい親の関わり方

英語習得はどの程度を求めるべきか?

読者の皆様に思い出していただくために、今回の連載の前提を何度も書いていますが、第3回もあくまで日本で生活する中で英語を学ぶ、もしくは生活言語のほとんどを日本語で過ごす場合の子どもの英語習得に限って書いていることを再確認しておきたいと思います。というのは、海外で生活し、英語が中心言語となる場合の英語習得と、まったく状況は違うからです。

それでも、日本で生活しながらも英語を習得することは不可能ではありません。どの程度を求めるかによるだけです。以前の記事で、次のようにバイリンガルが定義されることについて書いています。

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【〜連載〜帰国前にできること】第二回バイリンガルの正しい意味は?バイリンガルを目指すために大切なこと 前編:幼児から中学生のお子様を持つ親に向けて

実はこの定義によると、日本人の多くが「受容的バイリンガル」であると言えるのではないかと思います。つまり、理解できるけれど話せないというレベルの大人は多いのではないでしょうか。

だからこそ、「バイリンガル」というと、「均衡バイリンガル」(2つの言語を母国語レベルに同等に使うことができる人。英語ではbalanced bilingualという。)に憧れるのだと思いますが、多くの「バイリンガル」と呼ばれる人たちは「偏重バイリンガル」(2つの言語のうちどちらか片方が優勢な人。)だと言えます。

というのも、完全な均衡バイリンガルというと、2言語で読む、書く、聞く、話す、の4技能がすべて同じレベルで習得していることを意味し、そういった人は非常に少ないと感じるからです。

もちろん、数を正確に数えたわけではないですが、なぜこのように言及しているかというと、私は日本で育つ子どもに求めるべきは、「均衡バイリンガル」ではなく、「偏重バイリンガル」だと思うからです。

つまり、日本語の方が強いけれど、英語も母語レベルではないにしてもかなりのレベルで4技能を達成できる、というバイリンガルを目指すと良いと思うのです。

そして、避けるべきは、「限定的バイリンガル(セミリンガル)」(2言語ともに年齢相応に達しておらず、どちらの言語も中途半端な人。)ですが、おそらく日本に居住し、両親ともに日本人で家庭環境も学校環境も日本語に触れるような場合は、この「限定的バイリンガル」になることはほぼないと思われます。

子どもたちの周りには常に日本語環境があるため、日本語を母語として成長していくことになるでしょう。その分よほどの量のインプットがない限り、第2言語の習得は進まないのは当然と言えるでしょう。

母語としての言語習得の臨界期とは?

言語習得には、一般的に臨界期と呼ばれる時期があると言われています。それはつまり、「臨界期」を越えると言語習得が難しくなるという時期のことを指し、オンラインで「言語習得の臨界期」と調べていただくと、次のように出てきます。

言語習得の臨界期は12歳から13歳頃までの思春期前後の時期を指し、この時期を過ぎると母語話者並みの言語習得は困難になると考えられています。この概念は「臨界期仮説」として知られています。ただし、この仮説についてはさまざまな研究があり、明確な結論は出ていません。 

それでも、発音や音の聞き分けなどにおいては、年齢とともに習得能力が低下するとされていて、音声面は早期に学習を始めることは有効であるという研究結果があるので、この連載の第2回で推奨したように英語を子どもに聞かせることは習得に有効であることは明白です。

ただし、子どもが第2言語(日本の子どもの多くの場合、英語)をしっかりと身につけるためには、大量のインプットを必要とするという研究結果があり、日本のような英語習得に必要なインプットが非常に制約されている環境においては、よほど意識して多くのインプットの機会がない限り、なかなか習得できないというのが現状のように思います。

大量のインプットとは?

だからこそ、日本にいながらにしてバイリンガルに子どもを育てるには、それこそ「浴びるように」英語を聞かせながらも、日本語での学習の機会も守るということが必要となるため、機会を作って英語を聞かせてあげる、それも意味を理解しながら聞く、ということが必要だと考えます。

最近は字幕付きで簡単に自宅でも見られる子ども向けの映画もあれば、オンラインツールやアプリなど、さまざまな言語独学ツールがあるのでたくさん聞き、その意味を覚えることができると思います。子ども向けではないですが、12の外国語を習得しているということで有名なYouTuberのKazuさんおすすめのサイトを2つ紹介しておきましょう。

1つ目は「ケンドラ・ランゲージ・スクール」だそうです。2つ目は、「Easy Languages」で、こちらも良いそうです。

どちらも音として英語を聞けるだけでなく、英語の表記を見ながら聞くことができます。ただ、大人向けのサイトです。

ですから、子ども向けにはディズニー映画などを見せ、字幕が出るようにして、お母さん、お父さんが単語と音をつないであげる、そして、日本語の意味とつなぐという作業をすることで、英語の語彙が意味を持つ言葉として子どもの頭に入っていくことになります。

しかし、ここで紹介するYouTuberのKazuさんの学習の仕方を見ると分かりますが、実は大人になってからの方が習得の速度は速いのも、言語習得速度の研究結果からもわかっていることです。

子どものうちに親に言われて、英語漬けにされたために英語嫌いになってしまった子どもたちもたくさんいます。実際、私がシンガポールの日本人高校生に英語を指導していた時に、それまで英語の学習を遊びのようにたくさん聞いてきていたシンガポール在住の長い生徒の中に、「英語を見ると頭が痛くなる」と言う生徒もいました。

親が焦って無理に子どもに早くから英語を詰め込もうとしたり、大金をつぎ込んでネイティブの英語を聞かせたりしても、意味が分からないままではあまり役に立たないことはよく理解しておく必要があると思います。

英語を習得したら日本語は習得できない?

この質問にもぜひ答えてほしいとリクエストされているのですが、これまでの説明でこの問いは日本で日本語環境の中にある子どもに当てはまる質問ではないことは、すでにお分かりいただいていると思います。

この問いに関しては、海外滞在、特に英語国に滞在し、英語が学習言語となる子どもに関する問いだと言えます。英語は汎用性が高く、英語を使えるようになることで、他の言語が不要となるために日本語が習得できないという状況も起こりうるわけですが、この話は次の海外子育ての連載に譲りたいと思います。

それでも、日本に居住したままでも日本語を習得できないという状況があり得るのは、日本において子どもの学習先にインター校を選択したケースのように、英語の環境の中にいる方が長い時間を過ごす子どもの場合でしょう。

指導したことがある生徒の中には、日本のインター校出身で、日本語の習得より英語の習得の方が進んでいる生徒も見てきました。また、英語を習得させたいがゆえに、ご家庭でも日本語を使うことを控える、英語で受け答えさせるなど、日本において周りにある環境と違った生活をするなら、もしかすると日本語習得も難しくなるかもしれません。

言語は社会の中で必要とされるツールです。将来的に受験に有利だから、就職に有利だから、という理由で学ばせようとするのは、子どもにとっては無理でしかないかもしれません。

子どもたちは自分の住む社会の中で必要な言語を身につけていくのです。もちろん子どもによっては、英語に触れてきた経験が意味を持つものとなるかもしれません。また、自分の意思で英語学習を選択する子どももいるでしょう。

だからこそ、12、13歳までは母語並みに耳を慣らすことができるという研究結果があるのですから(この年齢すら、低めに見積もっているかもしれないと言われています。)親は早く英語を学ばせないと手遅れになるなどと思わず、楽しく学んでいくことが大切なのではないでしょうか。

まとめ

ご家庭の中でご両親の母語が日本語であるなら、まずは日本語をしっかりと身につけられるようにお子さんに日本語での語りかけ、読み聞かせをしてあげてください。

そして、しっかりとした構成の文で日本語を話せるようになった時点で、これは個人差もあると思われますが、おそらく4~5才以上でしょう、英語なり外国語の音を聞かせてあげることは無駄ではないと思います。

それでも12、13歳まではたくさんの音を聞くことで、母語レベルにまで第2言語を押し上げることもできるわけですから、焦らず、気長に母語の日本語とともに、本人がもっと学びたいという思いを持つまで、楽しみながら英語に触れていくと良いと思います。

この「楽しみながら」が継続に繋がる鍵であり、言語習得において重要であることは間違いありません。お友だちと、そして兄弟姉妹と一緒に学ぶことは、「楽しみ」に繋がる学び方でしょう。そこには共通の言語を学ぶ社会もできるのですから、まさに一石二鳥なのではないでしょうか。

AIの発達、音声翻訳機の機能の向上など、英語で話せるようになることだけを目標に頑張る時代は終わったのではないかと思うのは私だけでしょうか。

英語を聞き、話せるレベルの人は、もうその辺にごろごろいるように思います。それより、子どもたちには言語習得を通じて人との交流を大切にし、学ぼうとする英語を共通語として、さまざまな国の文化も学ぼうとする姿勢も身につけてほしいものです。

磯崎みどり氏のご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子供たちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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