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【連載第1回 海外子育て】 英語習得と日本語学習のポイント

磯崎みどりです。先月まで日本在住のご家庭の帰国子女が英語力を身につけるためには、という内容の「おうち英語」について書いてきました。

【連載 おうち英語】
・【連載第1回 おうち英語】子どもに英語習得は必要?英語力を育てる第一歩
・【連載第2回 おうち英語】子どもの英語習得!知っておきたい親の関わり方
【連載第3回 おうち英語】子どもの英語力はどこまで求める?日本語とのバランス

公開後すぐにお読みいただいたと数名の方からご連絡を受け、それだけ日本において英語力を身につけることが、学習において重要視されているのだとしみじみと感じました。

そこで今回、「海外子育て」について書く前に、私のスタンスを明確にしておきたいと思います。無礼に聞こえる点があるかもしれませんが、率直に申し上げたいと思います。私はいくら親が子どもに英語を身につけさせたいと躍起になっても、親の強い思いや意思が正確に伝わり、そして、なにより、その力を注がれている子ども自身が英語を学ぶことから得られるものについて理解を深めるのでなければ、幼い頃から英語英語と騒ぐのは間違っていると思っています。

つまり、英語はツールであって、教養を高め、世界を見つめる視野を広げた上で、それを英語という道具を使って勝負していくことができるようにすることが大切なのですから、中身を磨くことを忘れていては、話せる内容がない人間が英語を学ぶだけで終わってしまうと断言できます。

ですから、この日本語の言葉は英語で何というか、という表面的なことばかりを学んでいても、深い内容のあるコミュニケーションはできるようにならないことをまずは念頭に置くべきだと考えます。もちろん、それは英語を学習するのが無駄だという意味ではありません。ましてや英語習得を否定するつもりは毛頭ありません。英語という世界共通語を知ることは大切だということは、「おうち英語」の連載でも書きました。

だからこそ、その英語を習得することは、単に英語が話せることを目標にするのではなく、伝えたいことをしっかりと母語の日本語で理解し、英語でも伝えられるようにすることが重要だと言いたいのです。

これから書く、「海外子育て」においても、海外で生活さえすれば英語力はアップし、その上、日本語は母語なのだから忘れないに決まっている、と思っている方々には、このように甘いものではないとはっきり伝えてから、今回の連載の「海外子育て」について書いてみたいと思います。

英語圏に住むと自然に英語が身につく?-とは言えない理由

まず最初に、子どもが英語圏に住めば必ず英語が上達するという考えは甘いかもしれないことを知る必要があります。年齢別に考えてみたいと思います。

まずは幼稚園入園を始める3歳前後の子どもの場合から始めましょう。

この年齢の子どもたちは、生活できる程度の英語はすぐに身につけます。早い子どもは意味が分からなくても口真似をして、数か月で話せるようになります。

しかし、注意は必要です。

「おうち英語」の連載時に書きましたが、まだ母語である日本語が確立されていなければ、英語を話しているようでも、ただ口真似にしか過ぎない習得になっている場合があります(この件は「おうち英語」の時に例を挙げました。)

母語として最初に習得し始めている日本語と英語が結びつくように保護者が仲介者の役割を果たしながら語彙を増やしていくことができてこそ、英語も日本語も理解するバイリンガルへの道につながるのです。これは、まったく「おうち英語」と同じ状況です。

ですから、この時期だけで身につけた英語は忘れてしまうかもしれないことを含めて、親が躍起になって身につけさせようとすると、それがストレスとなり、かえって英語に拒否反応を見せることがあることを知っておくことも重要なように思います。

次に小学校入学の学齢(欧米式のKinder入学の学齢)の5、6歳程度を考えてみましょう。この頃になると、個人差が大きくなってきます。つまり、日本語で理解している語彙が多い子どもは、同じだけの量の英語の語彙を身につけるのに時間がかかるので、3歳の時のようにはいかないことがあります。

ただ、この学齢から英語圏に住むとなれば、英語で具体的な物や行動をフォニックスを元に指導してくれることになり、英語を覚えていくことになるでしょう。英語で示す事柄の意味が分かり、フォニックス(スペルと音を結び付ける)の理解が進むようにすれば、文字と結び付けて英語を身につける指導により、それが日本語では何にあたるのかが分かるようになれば、ますます英語習得の速度は増すでしょう。

この初期段階の習得は、10歳程度までは順調に進みます。ですから、このくらいの年齢以前に英語圏に居住すれば、英語でのコミュニケーションに問題がないようになる可能性が高くなります。

ただし、その時点で英語圏から去ることになる、つまり日本に本帰国する帰国生の場合は、今度は日本で英語を保持しようとするなら、かなりの努力が必要となってくるわけです。

その理由の1つが、10歳までの幼い子どもたちが習得する英語は、やはり子どもの言葉なのです。英語が分かるようになった、うちの子は英語が話せる、と喜ぶのはぬか喜びであることは、日本語に置き換えてみると分かるでしょう。

日本語で敬語が話せる、話せないというレベルではなく、たとえ敬語が少しわかるようになっていたとしても、小学4年生程度の語彙力では、大人の社会で通用する日本語ではないことは明白でしょう。このことをよく肝に銘じておくことは重要です。

ただ、経験と言う意味では、少しは記憶に残る年齢ですから、英語そのもの、と言うより、英語を通して子どもがさまざまな経験ができるよう、支援することは大切だと言えます。日本でしか通用しない価値観があることなどは、この年齢でも身をもって知ることができるのではないでしょうか。

さらに年齢が上がって、小学校高学年を越えて、中学、高校レベルの英語をこなせるようになっていれば、あとは本人の努力で専門とする内容の語彙力を高めていけばよいので、ここまで来て初めて「社会で使える英語」に高めていくことが可能になるでしょう。

逆に、中高生の学齢で初めて英語だけで生活する世界に放り出されてしまうと、すでに習得している日本語と同じだけの量の英語を身につけるには時間は必要で、必ずしも英語を簡単に習得できるものではないのですが、すでに基軸となる母語としての日本語を習得しているだけに、それこそ浴びるように英語を聞き、読む努力さえすれば追いついていきます。

年齢別に書いてみましたが、もちろん言語習得は個人差が大きく、上記したような年齢に当てはまらない子どももいらっしゃることでしょう。言葉に強い子ども、そうではなく他のことに強い興味を持つ子どもがいても当然なのですが、なぜか言語習得にだけは「神話」ともいえるような、「頑張ればできる!」といった親の頑張りで何とかしようとする傾向が見られるように思います。何度も書いているように、親の仲介は必要ですが、それでも、子ども本人の持てる力や興味が言語習得にも大きく作用することは忘れてはならないと思います。

たとえ自分の子どもがどんなに野球が上手になっても、野球少年全員が大谷選手になれるわけではなく、どんなに歌がうまくても、みんながみんなプロの歌手として成功できないことは誰もが簡単に理解できるのに、英語習得だけはお金をつぎ込んで英会話教室に入れ、海外で生活すれば完全なバイリンガルになると考えるのは何故なのでしょう。

AIで翻訳が簡単にできる時代です。人間でなければできないこと、単に英語を覚えるだけでは意味がないことを親子共に理解し、何を伝えるのか、どのような人間として英語を使えるようになるのかを考えながら子育てして成長を見守ることこそが大切なのではないでしょうか。

日本語学習や日本語保持はどうなるのか?

英語圏に移住し、学習用語を英語とし、その習得を中心に生活したら日本語は継承できないのでしょうか。まずはこの疑問に対する回答から書いていきたいと思います。

子どもの年齢、そしてその子どもの性格によっても、言語の習得には個人差がつきものなので一概には何も言えないのですが、確実に言えることは、新しく習得する言語の重さが(本人にとっての重要性)が重ければ重いほど、それまで習得していた言語、もしくはこれからも習得しようとしている既習言語の重さが軽くなることがあるということです。

つまり、元々習得していた言語が日本語であるとして、新しく習得しようとする言語が英語の場合、前回の「おうち英語」の連載時にも書いたように、英語の汎用性の高さも作用し、英語で簡単な会話がどんどんできるようになっていき、その分日本語を忘れていくような様子は見られるのではないかと思われます。

年齢が低い間は会話の相手は親であることが多いので、母語として日本語を話す親の子どもは日本語に重きを置くでしょうが、お手伝いさんやナニーさんと過ごす時間が長い場合は、英語の方が重要な言語となることがあります。ましてや、学友の存在が家族よりも重要になってくる年齢になると、その友人たちとの会話に使用する言語である英語が日本語よりもずっと重要な言語となり、日本語が不要であると感じることもあるでしょう。

だからこそ、もし子どもに日本語を継承させるなら、親が何らかの形で働きかける必要があります。それは、自宅での親の本の読み聞かせや、親からの子への語りかけなどに始まり、日本語を使えるコミュニティーを見つけ、そこに属することだと断言できます。

そのコミュニティーの重要性を最大限に生かせるのは「学校」形式であると私は考えます。机上の学習だけを重視する形式では、継承語は身につかないと感じます。クラスメイトと遊んだり、一緒に行事に取り組んだり、仲良くなって学外で遊んだりといった、非効率とも思える時間が継承語として生活にも学習にも使える日本語を身につけて行くことができる道なのです。

ですから、子どもに日本語を生活用語として身につけさせた上で、学習言語としても役立つ言語とさせたい場合、子どもに合う日本語を使うコミュニティーのある「学校」を探すことが親として最も重要な役割だと思っています。

今まで指導してきた児童・生徒たちの現在

私が運営・指導する日本語文化継承学校では、日本語を継承語として使用し、学習言語のレベルにまで習得してきた生徒を数多く卒業させてきました。彼ら・彼女らの現在について少しだけ紹介したいと思います。

日本語文化継承学校で指導した生徒の中には、卒業後、私がインターナショナルバカロレア(IB)日本文学やGCSE、Aレベル日本語の指導をした生徒がいます。立派な社会人となっている生徒も、大学生となった生徒もいます。あいうえおコースから中高生コースまで継続して所属していた生徒から、あいうえおコースのみ、中高生コースのみの生徒までさまざまですが、どの生徒もしっかりと日本語を学習言語とできるレベルで学んできた生徒たちで、大学や仕事で高いレベルで習得した日本語を活かしている生徒もいます。そして、その生徒の中には、日本語文化継承学校で学ぶだけでなく、ボランティアとして幼い児童の指導に当たった生徒もいます。

そのような生徒の一人のあいうえおコース(年長児クラス)の思い出をここに記します。

「日本語文化継承学校のあいうえおクラスに通っていた頃一番印象的だったのは、色々なゲームや、発表でした。文化を学ぶため、語彙力を増やすため、興味を持たせるため、それに合わせた楽しいゲームやタスクが用意されているので、日本語を学ぶことは楽しいこと、といった気持ちで臨んでいたことを覚えています。」

このような日本語文化継承学校の2026年度の学校説明会を、2026年2月1日(日)日本語文化継承学校の借用校舎であるAlliance Francaise4階セミナールームにて午後2〜3時に開催いたします。

<日本語文化継承学校の2026年度の学校説明会>

・日時:2026年2月1日(日)午後2〜3時
・場所:日本語文化継承学校の借用校舎 Alliance Francaise 4階セミナールーム

磯崎みどり氏のご紹介

継承日本語指導者として、20年以上の実績を誇り、アメリカコロンビア大学大学院で継承語について研究、修士課程を修了。

アメリカ、シンガポールの補習校指導を皮きりに、現在シンガポール日本語文化継承学校校長。また、IBDP認定指導員として、日本語文学(Japanese A Literature)を指導。シンガポールではAIS(オーストラリアンインターナショナルスクール)でIBDP日本語文学、IGCSE相当の母語日本語、Tanglin Trust SchoolでGCSE、A Level日本語を指導。その他、Marlbourough College (Malaysia)のIB Japanese A LiteratureのSSST (School Supported Self Taught)を指導。

英語指導については、シンガポール日本人学校中学部の英会話クラス講師、早稲田渋谷シンガポール校英語教員を歴任。

自身がマルチリンガルの娘を育て上げた母親の一人。

日本語文化継承学校は、日本国籍をもちながらも、海外生活が長く、早急な日本への帰国予定がない、もしくはシンガポールに永住する子どもたちを主な対象とした、日本語と文化の両面から学ぶことを目的とした学校です。さまざまな環境の子どもたちにあった学びの場を提供するため、日本語文化継承学校はさまざまなコースを開催しています。

詳しくは、ホームページ

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

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